現代中国語での「野」と「原」

現代日本語、古語日本語での「野」と「原」の語義はどのようなものかと見てきたのですが、はっきりしていそうで、もうひとつ分からないところがあるような、そのような説明のしかたになっていたような気がします。そのなかでも岩波古語辞典は、かなりつっこんだ語義の説明をしていますが、問題はその説明のしかたがどこからきているのかということです。それは今はさておいて、現代中国語での語義をみておきます。

{野と原・・・現代中国語の用例}
○『50音引き中国語辞典』講談社、2000年。 {注意。この辞書は、50音順での「音引き」(字音で辞書引き、原則として字訓では引かない、というユニークな辞書)でという発案は日本人だが、中心となった日本人は二人とも故人です。のこりの二人の中国人が編集の中心にいます。その意味で漢和辞典のようにはなっていないであろうと予測できます。注意しなければならないのは「漢和辞典」は「日本語」の辞典であること。}
⊿野(「ヤ」で引く)、ye(3声):(埜)形。1.野生である。2.粗野である。無作法である。乱暴である。3.勝手気ままである。野放しである。
語素;1.野原、野外、郊外。例)野游:ピクニック。2.範囲、限界。例)視野。3.民間(朝に対して)。例)在野:民間にいる。在野の。
 {まず、「形容詞」であること。埜が本字。野は異体字。郊外というような意味にもなるが、柳田國男が言うような特定の地形を意味するものではないということが重要でしょう。→漢字にはなかった意味を日本語で使用する漢字に付け加えた。そして「名詞」ともなり、元の漢字にない意味となったのかも、という推測ができます。}

⊿原(ゲンで引く)、yuan(2声、ユエン)。形。初めの、もとの。例)原版。副。もともと、もとは。例)我原不想去。私はもともと行きたくなかった。語素。1.未加工の。2.原、平坦な土地。例)平原。3.許す、了承する。=原諒。例)情有可原。情状酌量の余地がある。

○『簡明中国語辞典』中国語言学院著、東方書店、1986年。
{この辞書は、中国語言学院著となっているように、中国人の著書。日本の翻訳、監修も中国人のみでなされています。初学者向けの辞書ですが、日本人にとって使いづらいところがあります。私のような漢字をピンインでおぼえられない日本人にとっては、ということです。その制限さえなければ、現代中国語そのものを学ぶには、たいへんすぐれた学習用辞典だと思います。}
⊿野ye(2声)(形)1.粗野である;不作法である。2.規範などに拘束されない;自由奔放である;野ほうずだ。例)心野了。心のブレーキがきかなくなった。
(当該の問題に関連がある言葉の用例を挙げると)「野地」yedi(2・4 声)(名)原野;人里からはなれた荒地。

⊿原yuan(2声)(形)1.もとの;本来の。例)原作者。2.未加工の。例)原煤(=原炭)

 ここで重要なことは、「野」も「原」も形容詞だということでしょう。そして語義の説明は簡単なものです。野は「地」を修飾することもありますが、それは特定の地形をあらわすものではなさそうです。日本語とのずれがここらあたりでも見て取れるようです。