「野」の字源について(白川静『字統』)

 白川静『字統』から、「野」の字源について以下に引用しておきます。

 以前にあげました『岩波古語辞典』の「野」の解説と比較しますと、これは中国の漢字の解説(解字)です。日本語の古語辞典の解説とは異なることがわかります。といっても、これだけではわかりづらいですが。白川静『字訓』では、漢字の日本語としての使い方も分析の対象となりますから、『岩波古語辞典』と同じような解説が載っています(挙げませんけれど)。下の『字統』での説明は、説文からはじまり、「郊外」とか「都」に対する「野」とか、「朝」に対する「野」とかが挙げられていて、現代中国語と同じような意味であることがわかります。

 

○野[埜][壄](ヤ、ショ、の、ひな、いなか):形声、声符は予(よ)。[説文]一三下に「郊外なり」とあり、重文として埜に予を加えた字を録する。[玉篇]に壄に作る字である。卜文に埜の字がみえるが、用義例に明かでないところがある。[大克鼎(だいこくてい)]に地名としての埜の字がある。里を田と土(社)に従うて田社の義とすれば、埜は叢林の社の義となる。これに対して野は予声の形声字である。都域に対して田野といい、野鄙(やひ)・樸野(ぼくや)の義がある。豺狼(さいろう)の子は、山野の心を忘れず、これを飼養してもその本性たる野心を失うことがないので、人の非望を抱くものを野心という。朝廷貴紳に対して民間にあるものを在野、官を辞して民間に帰ることを下野という。野にまた土をつけて別墅(べつしょ)の字に用いるのは、六朝以後のことで、そのころから山荘の経営が行われた。

 

 さて、ここまできて、日本語では「野」(ヤ)を「の」とも読み、その「野」(の)の用例が、日本語にとって重要なのですが、本来の漢字にはない意味あいをもっているということが分かってくると思います。このあとそれについて触れていこうと思います。