お医者さんは偉い

 「お医者さんはえらい」と書くと「えらい=たいへんだ、つかれた」という意味が関西弁にある。ここは「お医者さんは偉い」。昔からお医者さんは偉かったし、今も偉い。しかも金持ちである(橘木俊詔の研究参照)。職業的威信が高い。医学部の受験も難関である。よけいに威信が高くなる。そこで医者と患者の関係は上下の関係となりやすい。かつてのヨーロッパでは(日本も同じだが)庶民は医者にはなかなかかかれなかった。ほとんど死にそうになってから医者にかかるのがほとんどだった。病院に行くこと、入院は、死を意味していた。庶民の病院嫌いは何世代もかけて蓄積された経験から由来していた。ところで日本の医者の格好は、最初は坊主の姿をし、儒教がはやると儒学者の格好をし、近代日本では白衣の格好という具合に変遷してきた。患者に対する威厳を保つためである。それらの格好はその時代の威信を表示する職業を反映するものである。近代社会における白衣は自然科学者の実験用衣服である。「科学」的であることを「医学」は重視したのだ。だが医学は、あるいは「医療」行為はまったくの実験的科学とはいえないところがある。たとえば公衆衛生は直接に医者がかかわらなくても重要だ。ここらへんからお医者さんは「お医者さん」だから「偉い」と単純には言えなくなってくるのである。(121026)