倫理

天地不仁

「天地不仁」というのは中国古代の思想書『老子』に見える言葉である。「不仁」ということで儒家の「仁」の思想に真っ向から対立している。「天地不仁、以万物為数芻狗。聖人不仁、以百姓為芻狗」と続く。蜂屋邦夫訳では、「天地は仁愛などはない。万物をわ…

墨子の思想集団

古代中国の戦国時代に活躍した思想家に墨子がいる。墨子は儒教とは対比的な思想を展開し、彼の系統の思想集団はたいへんな影響力をもっていたが、秦帝国ができてから後に絶滅してしまった。千年ほどたってから朱子の時代に再度隆盛をほこる儒教とはおおきな…

「礼」といえば一般に礼儀作法の礼と理解されている。「おじぎをする」からはじまり「礼をつくす」というような事柄を指している。儒教の創始者孔子は「礼」を重要視した。加地伸行『儒教とは何か』(中公新書)では、「死」を中心において「礼制」を考察し…

ポリス的動物

「人間はポリス的動物」である、というのはアリストテレスの名言であるが、「ポリス的」のところは、政治学では「政治的」動物と訳され、社会学では「社会的」動物と引用され、いずれもアリストテレスが述べたように云々、と説明されることが多い。まったく…

刻みこまれた性格

英語のcharacterは「性質」「性格」「人格」「特性」「人物」「登場人物」等をあらわす。語源はギリシア語でcharacter=刻印の道具、から由来し、「刻み込まれた印」「刻み込まれたもの」から「性格」を意味するようになった。人間の「性格」は、本性的(自…

怪物を内にかかえた存在

プラトンの学説に魂の三区分説というものがある。人間の魂は理性、意志、欲求の三部分にわかれており、理性が欲望を適切に制御し、三つの部分が調和するのが理想である。ところで、理性はそれほど簡単に欲望を抑制できるのだろうか。プラトンは『国家』のな…

癒やし系

ひところ「癒やし系」(「イヤシ系」)などという言葉がはやった。見た目が癒やしをもたらせてくれそうな女優を指してつかわれたのがきっかけだった。ところで「癒やし」とは、文字からしてもわかるように「やまいだれ」がついていて、病気に関連する言葉で…

idea

ideaと書けば、英語読みでアイデアと読める。アイデアと読めれば、「アイデア」「思いつき」「着想」という意味ばかりでなく、「観念」「概念」「思想」、さらには「見当」「知識」、「予感」「想像」などの意味が思い浮かぶ。ラテン語的な読み方だとイデア…

生物多様性という認識

近年になってから、日本において生物多様性という認識がひろまりつつある。かなり前になるが、1971年に野生のコウノトリを保護のため捕獲した。これは象徴的なできごとだった。1972年にリオデジャネイロで生物多様性条約が締結された。しかし、日本が締結す…

重装兵としてのソクラテス

ソクラテスは重装兵として三度従軍して重要なつとめを果たしたことは書物によく書いてある。「重装兵としてのソクラテス」というのは、軍隊に参加するには兵備に費用がかかり(自己負担)、それだけの財産資格が問われたので、つまりそれだけの財産がソクラ…

人間は塵

「神ヤハウェは大地の塵をもって人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き入れた。そこで人は生きるものとなった」(『創世記』2−7、旧約聖書Ⅰ、岩波書店)。「あなたは大地から取られたのである。あなたは塵だから塵にる」(同書、3−19)。大地は土、塵も…

魂への気遣い

ソクラテスには有名な言葉がいくつも残されているが、魂への気遣いもその一つである。ソクラテスは70歳を過ぎた高齢にして死刑判決となり、毒杯をあおいで死んだ。訴状にある理由は二つ。だがそれ以前にソクラテスはアテネの市民にとって不可解な人物だっ…

「青年期」という期間

青年期という期間をどのように区切るかは、はっきりしない。11歳、12歳から、あるいは14,15歳からとか、いろいろな説がある。また青年期のおわりが、いつと考えればよいかについては、青年期の始まりよりさらにあいまいである。モラトリアム期間というものを…

「万物流転」のさと、エペソス

「万物流転」というヘラクレイトスの言葉はたいへん有名である。彼が活躍したのはエペソスというところである。エペソスはヘラクレイトスからずっと後まで繁栄したところである。ここには十字架で磔になったイエスの母(聖母マリア)が、イエスの死後逃れて…

交易にたけた古代フェニキア人

古代ミレトスで活躍した哲学者タレスはフェニキア人の一門の出であるという説がある。他方、生粋のミレトス人であるという説もある(ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』)。ミレトスはギリシアの植民都市であり、港湾都市でもあったから、…

お医者さんは偉い

「お医者さんはえらい」と書くと「えらい=たいへんだ、つかれた」という意味が関西弁にある。ここは「お医者さんは偉い」。昔からお医者さんは偉かったし、今も偉い。しかも金持ちである(橘木俊詔の研究参照)。職業的威信が高い。医学部の受験も難関であ…

古代ギリシアの世界は広かった

現代のギリシアは国家財政問題で知られており、EUのなかでもとくに問題視される国である。一般的にいって、EUのなかで問題とされる国はラテン系というか、地中海に面した国に多い。少し前にはアテネ・オリンピックもあり、ギリシアといえば世界地図上のだい…

元のもの(根源)は何だろう?

すべてのものの元のもの(根源)はいったい何だろう? と問題をたてたときから哲学ははじまったとされる。なかにはこんな疑問を小さいときからもった人もいるかもしれないが、すべてのもの、元のものという考え自体がすでに観念化されているから、そうとう高…

いろんな考え方が提起された時代

1960年代から70年代にかけては倫理学の分野ではいろんな考え方が提起された時代だといえるだろう。1949年のA.レオポルド『砂土地方の暦』(A Sand County Almanac)は先駆けの書物だが、62年R.カーソン『沈黙の春』、68年ハーディン「共有地の…