小松健一『三国志の風景』

小松健一『カラー版 写真紀行 三国志の風景』岩波新書、1995年。本の題名どおり、三国志にまつわる中国の地を巡り、写真に収めたもの。95年という出版年代からわかるように、今からほぼ20年前の中国の様子がそこにある。北京、上海、香港などは写っていない。文化大革命の傷跡が残っていて、文化財が破壊された痕も写っている。三国志はなにかの要約本で読んだようなうっすらとした記憶があるが、この写真紀行で広い中国のここが舞台だったのかとあらためて確認した。路上での旅芸人、盲目の胡弓ひき、地面に詩を書き、施しを乞う人が写されている。この本の末尾には井波律子の三国志の形成過程についての解説があって、その中に田村実造の著作からの路上講談(講読)の様子が紹介されている。経済成長をとげた現在の中国で、このような路上の人びとがどのようになっているのか、いまも語りものや歌の世界が展開されているのか、この本が出版された20年以上経った中国を見てみたい気がした。大阪あたりで見かける中国語を話している人たちと同じなのだろうか?