隈研吾『小さな建築』(岩波新書)

東日本大震災のあと、「小さな建築」の方向で考え実践してきた記録。建築は災害と密接な関係をもっている。リスボン地震、ロンドン大火、パリ改造、シカゴ大火と都市の変容とも関連が深い。木造建築から不燃化都市をめざし、さらに鉄とコンクリートという素材を得て、高層化建築が実現した。建築技術の高度化もあって建築物はどんどん大きくなっていった。本書に紹介してあるものは、建築の根本から考え直そうとの試みである。基本のレンガや石の「積み上げ」から、「もたれかけ」構造、「織る」構造、「膨らまし」を経て、消えてなくなる茶室をフランクフルトにつくることで本書は終わる。回転する空間と茶室をとらえることで、太極図との相似的な思考が展開されている。小さく小さく、利休の「待庵」にまで至る。建築の比較思想的考察がなされ、しかもそれが実践されていく過程がスリリングである。途中で飛騨高山の「千鳥」という木組みが登場する。私もお土産にもらったことがある。木組みの知恵の輪のようなもので、すぐさまバラバラにして、もう一度組み立てた。そのあとは鍋敷きにしていた。ところが、これは木の織物、さらに立体に展開されている。思いもよらぬ木組みの建築物へと発展し、東大寺南大門の「大仏様」の木組みが紹介される。木造建築の深みを知ることができる。