永幡嘉之『巨大津波は生態系をどう変えたか』

 永幡嘉之著『巨大津波は生態系をどう変えたか』(講談社ブルーバックス)には、東日本大震災津波が襲った沿岸部の写真がでている。同書22頁の写真をみるとかつての湿地の範囲に津波が侵入した様子がわかる。「かつての湿地」は今は水田になっている。白砂青松は日本的な風景の代表例として挙げられるけれども、それは人為的な形成の産物であることを松本健一があきらかにしている。「かつての湿地」と海辺のあいだに防潮・防風林を植え、湿地を水田に変え、かつての風景がなくなり、生活が安定することによって、自然の地形が忘れられてゆく。カメラマンの永幡は何度もシベリアを取材し、シベリアの湿地帯を見る経験の積み重ねによって、日本のかつての湿地帯のありかを推測できるようになったという。巨大な波はずっと昔にもたどったのと同じような波のあとを残した。自然のまえの人為ということを考えざるをえない写真である。(121022)