「酒」の文化論的分析

 柳田國男の学問は民俗学、ことに「日本」民俗学と言われているが、文化論的にも読み込むことができる。柳田の名著と呼ばれている著作は多々あるが、『明治大正史 世相篇』も代表作のうちのひとつであろう。なんど読んでも新しい発見がある。まあそれは読む側の問題で、少しずつ知恵がついてきて、柳田が一見ぼかして書いているようにみえる文章を読み取れるようになったということなのだろう。江戸時代から明治・大正へと時代が変化してくるなかで失われたり、改変されたり、新規に出て来たものが書きとめられている。「酒」についての記述は「世相篇」のなかでもたいへん面白いものだと思う。歴史的変遷、酒造りの技術の進歩、大蔵省の税金対策、「どぶろく」をめぐる民衆との駆け引き、女性の酒にたいする位置の変化(支配権の変化)、禁酒運動などが述べられ、酒というひとつのものに対して、たった一つの視点からだけでは到底アプローチができないことがわかる。酒の記述の始まりは「社交」からであるが、これは人間関係、社会関係の変化を見据えて書かれている。歴史社会の大きなうねりが背景にあり、それを柳田民俗学がとらえようとしていたことが良くわかる文献である。121101)