癒やし系

 ひところ「癒やし系」(「イヤシ系」)などという言葉がはやった。見た目が癒やしをもたらせてくれそうな女優を指してつかわれたのがきっかけだった。ところで「癒やし」とは、文字からしてもわかるように「やまいだれ」がついていて、病気に関連する言葉である。病気から治してくれる、治癒してくれるということである。治癒の「癒」を分解するとこれはなかなか意味深い漢字であることがわかる。癒は愈にやまいだれがついてなりたっている。愈は兪に心が下についている。愈は心と音符兪が附いたもの。いやな気持ちが去って、気が和らぎ、「たのしむ」意。兪は兪の「月」のところが木をくりぬいた舟を表す(意符)。右は音符、チウ。ぬきだすの抽に通ずる。兪は「まるきぶね」、それが水にうかんで「ますます」「すすむ」「顔かたちがやわらぐ」「いえる」「なおす」などの意味になる。それから愉快の愉はりっしんべんが兪についたもので、こころが愉快。たしかに水のうえを小舟にのってすっとすすむだけで心が愉快になる。だから湖などで男女がボートにのるのは、二人でのるからというのもあるだろうけれど、すっと進むから愉快ということもあるだろう。病気が癒やされこころが解放された状態というのは、小舟がすいすいと進んでいるような感じだとすると、すぐれた造語力を漢字がもっているものだと感心せざるをえない。(121116)