水谷竹秀『日本を捨てた男たち』

集英社文庫、2013年11月。元、2011年集英社から出版。第九回開高健ノンフィクション賞受賞。
副題にあるようにフィリッピンに生きる困窮邦人を取材して書かれたものである。外務省の援護局は在外の困窮邦人の帰国の手助けをしているが、世界のなかで一番多いのがフィリッピンであり、2010年で4割以上、半分以上を占める年もあるという。海外で経済的に貧窮してしまう日本人を「困窮邦人」というがフィリッピンでの日本人の「男」たちといえば、やはり「女にだらしなく」て帰るに帰れなくなった人が多いようだ。この本でケースとしてあげられている男たちもそうだ。自業自得、自己責任だ、と言ってしまえばそのとおりなのだが、時期は1990年代の末から2000年代のはじめ。日本国内では格差社会、非正規雇用、製造業への派遣の解除、などが話題にもなった時期である。時代背景にもそのような事情がちらほらでてくる。こういう社会的観点からすると、日本に捨てられた人たち、ということになり、マニラ在住の日本人たちもそのように言うのだが、水谷が取材していくにつれ、フィリッピンで困窮している人を通して、日本社会の特質がすこしづつ浮かび上がってくる。困窮邦人は決してほめられた生き方をしているわけではない。たんなる犠牲者でもない。退職金も家も現地での妻もすべてなくして、その日暮らしになっても、一日でも日本に帰りたくない、との断言があらわれる先には、東京まで3000キロ離れた日本という土地がある苦みとともに思い浮かべられているのだろう。