山田登世子『贅沢の条件』

山田登世子『贅沢の条件』(岩波新書
この本はシャネル論でもある。ココ・シャネルは少女のころ修道院の孤児院で暮らしていた。彼女は長じて、シャネル・スーツを生み出す。それは、現代の働く女性のファッションだった。20世紀のはじめのことであり歓迎されて流行ともなった。だか、シャネルは大量生産ではなく、手仕事を取り入れた。またジャージ、ツイードという働くという身体の「動き」に適した素材を衣服に取り入れた。
時代は、手仕事の世界から機械生産の世界へと動いていた。機械生産の時代=資本主義の世界になってから、「女性労働者」も登場したが、女性たちの憧れの衣服がシャネルだったというのは矛盾でもある。なぜなら時間効率と大量生産と安価な製品の蔓延の世界、それの追求こそが成功を約束する世界では、手仕事の世界は駆逐されるものだからである。手仕事の製品は、長い時間、非効率、少量生産、高価なものとならざるを得ないからだ。昔のもの、古いものこが、かえって価値のあるものと見なされるようになるパラドックス。シャネルはこの転換点に生きていた。