森枝卓士『カレーライスと日本人』(講談社学術文庫)

講談社学術文庫、2015年8月刊行の本である。同名の講談社現代新書版は以前からある。これに「日本の食文化研究に大きな影響を与えた名著に、その刊行後判明した新事実を加筆した決定版!」と文庫本の裏表紙の宣伝文句に書いてあるように、「補遺」「関連書籍」が付加されたもの。たいへんよくできた内容の本で、たしかに「名著」といっていいかもしれない。元は1989年に出版されているから26年前の本が通用しており、その名称に値するであろう。カレーライスの起源をしらべ、インド、イギリス、東南アジアをめぐり、文献を探し、食べ、作り、カレーライスとは何かをさぐる。その結論は、「内向きの国粋主義にとどまらず、積極的に外のものを取り入れて形成される、そんな日本文化の特質を象徴するものにカレーがなっているのではないだろうか。カレーはすでに日本料理である」(223頁)、というものである。日本文化とは何かをカレーを通じて論証してしまった。日本文化論としてみごとなものだと思う。しかも論ずるだけでなく、食べるという行為につながっている。まずいカレーには漢方薬の胃薬の粉末を入れればよい、とあったので某有名会社の胃散を入れてみた。効果がわかりやすいようにコープで売っている甘口のカレーに入れたが、胃散の量が足りなかったせいか、あるいは十分おいしいせいか、味の変化はわからなかった。