海野弘『ココ・シャネルの星座』中公文庫。

海野弘『ココ・シャネルの星座』中公文庫、1992年。(元、1989年、中央公論社刊行。)
この本の意図は、著者が「あとがき」で書いているとおり。
「シャネルが関わった、まわりに集まっている人々の方から、彼らを鏡とし、その合わせ鏡によって、シャネルの多面的な姿を浮かび上がらせたいと思った」(259頁、引用は要旨)。
そして、「シャネルの生涯でありながら、十二人の評伝であり、また一つの時代史でもあるという欲張った構成」(260頁)と書いているように、シャネルが生きていた時代を映し出している。
この十二人とは、ガブリエル・コレット、ポール・ポワレミシア・セール、セルジュ・ディアギレフ、パブロ・ピカソ、イーゴル・ストラヴィンスキージャン・コクトー、ピエール・ルヴェルディ、ポール・イリブ、エルザ・スキャパレリ、セシル・ビートンルキノ・ヴィスコンティ
シャネルは19世紀の末から20世紀にかけて生きて活躍した。第一次大戦、第二次大戦と二度の大戦をくぐり抜けた。そのあいだにシャネルは彼女「栄光と悲惨」(あとがき)を体現した。悲惨のなかには第二次大戦中のcollabo(対独協力者)という汚点もある。シャネルの「栄光」の部分だけを取りあげるならば、いかにデザイン上で成功したかが語られるが、ヨーロッパの地域と時代を振り返えると資本主義、社会主義、ナチズム、ファシズム、労働運動、多彩な芸術運動が渦巻いていたことがわかる。服飾デザインのみならず、百花繚乱の芸術運動との関わりの側面からシャネルを見て行く良いきっかけとなる本である。