岩井克人『経済学の宇宙』

岩井克人『経済学の宇宙』日本経済新聞出版社、2015年。
別の本を借りに図書館に行ったら、その本の近くでたまたま目にとまったのが、これ。日本経済新聞に五回にわたり連載されて好評だったので、さらに手を入れて出来ている。岩井は、聞き手の前田裕之が「まえがき」に書いているとおり、経済学の宇宙を見渡せる数少ない一人であろう。経済学の導入書としては岩波新書版に、佐和隆光宇沢弘文森嶋通夫などの本があるが、岩井がアメリカにいたのは宇沢や佐和のあと、しかもかなり長期にわたって滞在して研究していただけあって、アメリカの経済学の事情がかなりよく分かる内容となっている。ケインズ経済学を基本としているので、アメリカで主流の新古典派経済学そのものではないが、主流派を批判的にとらえているだけあって、経済学そのものを客観的に捉えることに成功しているように思う。日本に帰ってきてからは法人論、貨幣論など独自の展開を行い、経済哲学、経済と法学の領域での理論展開も興味深い。なかでも株主主権論への反論を会社の二階建て構造から行っているところはなるほどと思った。アメリカでの成果である『不均衡動学』への歩みゆきも面白い。大学に入る前から宇野派経済学を通してマルクス経済学を理解していたからこそ(それはアメリカでは弱みとなるが)、貨幣論、資本主義論、利潤論の独自の展開へと至ったことがよくわかる。たまたま手にとって読んだにしては読み応えのある書物であった。