いろんな考え方が提起された時代

 1960年代から70年代にかけては倫理学の分野ではいろんな考え方が提起された時代だといえるだろう。1949年のA.レオポルド『砂土地方の暦』(A Sand County Almanac)は先駆けの書物だが、62年R.カーソン『沈黙の春』、68年ハーディン「共有地の悲劇」、68年M.フリードマン「ビジネスの社会的責任は利潤を増大することである」、69年ヨナスの生命倫理学の論文、70年代にはいって「中絶」の問題が扱われ、75年にはレイチェルが安楽死の問題をとりあげている。アメリカが主だが、60年代~70年代にかけてのアメリカ、そしてヨーロッパは社会的・政治的におおきなうねりを体験していた時代である。その歴史的な背景もあって応用倫理学の発生へとつながっていったのだろう。日本で「村上ファンド」が話題になったのが90年代の終わりころから2000年代のはじめにかけて。加藤尚武環境倫理学のすすめ』(丸善)が1991年、『応用倫理学のすすめ』(丸善)が1994年である。日本の60年代~70年代のアカデミズムには、アメリカの思想的試みに匹敵するものがあったのだろうか。(121012)