交易にたけた古代フェニキア人

 古代ミレトスで活躍した哲学者タレスフェニキア人の一門の出であるという説がある。他方、生粋のミレトス人であるという説もある(ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』)。ミレトスはギリシアの植民都市であり、港湾都市でもあったから、タレスフェニキア系であったかもしれない。古代のフェニキア人たちは交易に長けていたことで有名である。地中海世界の全域にわたって、ギリシア系とフェニキア系の植民都市が建設されていた。フェニキア系の有名な植民都市はカルタゴである。このように地中海世界では交易が広く営まれていた。交易に欠かせないのが貨幣である。貨幣を使用することによって、物々交換では範囲が狭められる交易は、飛躍的にその範囲を広めることとなった。貨幣を日常的に使用することによって、本来ならば別々の物を同一のモノとして認識するようになる。今日ではいとも簡単な思考操作で、交換価値を推し量ることができるが、この抽象化する思考は人間にとって大事な「概念」と密接な関連がある。私たちは、すべてのモノをカネで置き換えて考える癖がついてしまっているから、なにも疑いもしないが、実はかなり高度な思考方法なのである。(121030)