「原」の字源と意味(諸橋大漢和、白川静『字統』)

漢和辞典では諸橋轍次『漢和大辞典』まで参照した。漢和辞典を引いて分からない漢字がでてきても、諸橋大漢和を引けば解決する。とある漢字について、最終的に知りたいというときに、何度お世話になったかわからない。辞典も、諸橋大漢和までくるとほぼ最終的な段階となるが、漢字の字源については、白川静というこれまた漢字の世界では神様のような人がいる。白川静『字統』は漢字の字源についての辞書であり、漢字世界での金字塔というべき辞書である。

このまえから、「野」と「原」について、文字についての辞書的な意味の世界から、この二つの漢字の意味について調べてきたが、これでおそらく辞書的な意味については最終的な紹介となるだろう。

 前回、「原」は「邍」とは違うものであった、という諸橋大漢和の説明があったので、まずは諸橋大漢和での「邍」についての説明をみておく。

 

◆諸橋大漢和
○邍(ゲン、グワン) はら。高く平らな地。通じて原に作る。[説文]邍、高平曰邍、人所登、从辵俻(この漢字のにんべんを取り去ったもの)彔(ろく)、闕。 [集韻]邍、通作原。
[邍師]周官の名。夏官の属。四方の地名を掌り、その丘陵・墳衍・邍隰の名を辯ずる。[周禮、夏官、序官、邍師、注]邍、地之廣平者。[周禮、夏官、邍師]
邍師、掌四方地名、辯其丘陵墳衍邍隰之名。
[邍隰]平原と隰地。[周禮、夏官、邍師]邍隰之名物。(疏)高平曰原、平濕曰隰。


 諸橋大漢和では、「邍」についての「説文」の説明をまずとりあげている。解字の構成要素をとりあげて「闕」となっている。これは、白川『字統』の説明にも出てくる。

 

 それでは白川静『字統』から、「原」の説明をみておこう。
白川静『字統』平凡社、新装普及版、1999年1月。
○原[源][厵] 厂(かん)は巌。巌下に泉を書き、水源の意をあらわす。源の初文。平原の原とはもと異なる字である。水源の意よりして原本、原始・原委(本末)・原因・原由、また推原・遡原の意となる。のち原野の原に用いるが、その本字は邍(げん)、狩猟を行うところの意である。原を原野の字に用いるに及んで、またその形声字として源がつくられた。


  このような説明となっている。「原」は、現在使っているような「はら」(原)の意味ではなかった! この意味では現代中国語は中国語として、古来の意味を守っている。 →本来の「邍」(げん)を調べようとしても、新漢語林にはない。諸橋大漢和も詳しい説明はない。『説文』でも字源についての解説が欠如しているので、仕方がない側面がある。では白川は邍をどのように説明しているのだろうか? 『字統』で引いてみると、たいへん詳しい説明を載せている。

 再度、注意をお願いします。「げん」の字は、『字統』記載の漢字と、ワープロで出した漢字とでは少し違います。ワープロでは漢字の文字が出ないので、そのつもりでおねがいします。「野」と「原」の語源をを比べると、「原」の「源」(みなもと)(=本来の漢字という意味で)のほうがやっかいです。記述が長くなりますので、次回にまわします。